log.08 草原が育てるヤクの毛
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日本では、
少しずつ春の空気が混じりはじめている。
冬の重たい空気がゆるみ、
街にも少し軽い空気が流れ始める頃だ。
遠く離れたモンゴルの草原でも、
同じように季節が動き始める。
長い冬を越えたヤクの体から、
役目を終えた産毛が
少しずつ浮きはじめる季節だ。
遊牧民たちは、
その毛を櫛で丁寧に梳き取る。
刈るというより、
自然の流れの中で
少し分けてもらうような感覚に近い。
ただ、この換毛のタイミングは
その年の気温によって少しずつ変わる。
今年は冬が長いらしく、
まだ本格的には始まっていない。
モンゴルから、
そんな連絡が来ていた。
自然の流れを見ながら、
Yacraphの原毛の手配も
少しずつ動きはじめる。
中国側のヤクの原毛も、
モンゴル国のヤクの原毛も、
これまで長く見てきた。
同じヤクでも、
手に取ると違いははっきりしている。
密度。
弾力。
軽さ。
その差は、
育つ土地の環境から生まれている。
モンゴルの草原で育つヤクは、
氷点下30度、
ときには40度近くまで下がる冬を越える。
さらに、
夏との寒暖差も大きい。
そうした環境の中で生きるために、
ヤクは自然と、
自らの体を守る力を備えていく。
その力が、
原毛の中に残っている。
原毛の束を持つと、
軽さと弾力が同時に伝わってくる。
ただ柔らかいだけの素材とは、
少し違う感触だ。
集められた原毛は、
ウランバートルの古くから続く工場へ運ばれる。
もともと国の研究機関として始まり、
この国の繊維産業を長く支えてきた場所だ。
本来なら、
大きなブランドの製品が
作られるような場所でもある。
そんな場所で、
小さな個人のブランドが
原毛からものづくりをしている。
少し不思議な関係かもしれない。
そうして、
草原から始まった素材は、
いくつもの手を通って
一枚の【服】になる。
ヤク素材は近年、
さまざまなブランドでも見かけるようになった。
中には溶剤を使い、
毛を強く起毛させる加工もある。
いわゆる、
ファー加工と呼ばれるものだ。
そうして生まれる柔らかさもある。
ただ、
Yacraphが大切にしているのは、
もう少し自然に近い質感だ。
厳しい冬を越えるために備わった、
産毛の密度。
その環境が育てた、
軽さや弾力。
手を加えて作る柔らかさではなく、
もともとそこにある素材の性質を、
そのまま【服】にしたいと思っている。
そして今年も、
草原では毛を梳き取る季節が
近づいている。
【一年に一度、冬にだけ届く服】は、
そんな春から始まっている。