log.05 冬、にだけ届ける
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服づくりの現場には、
長く続いてきた慣習がある。
春夏、秋冬。
決まった時期に展示会を行い、
定期的にコレクションを発表していく流れ。
それは多くのブランドにとって、
自然なやり方だと思う。
ただ、私はそのリズムに、
少しだけ違和感を覚えるようになっていた。
決まったタイミングだから出す、
という発表の仕方よりも、
ちゃんと納得できる状態で見せたい。
そんな感覚のほうが、自分には近かった。
たとえば、
行きつけの飲み屋の「今日のおすすめ」のようなもの。
いいものが入ったときに、
今日はこれがある、と出してくれる。
その一皿に、余計な説明はいらない。
作品を発表する芸術家の姿勢にも、
どこか近いものを感じている。
数を揃えることよりも、
準備が整ったときに、
ちゃんと世に出すこと。
そう考えていくうちに、
一年を通して作る必要はない、と思うようになった。
ヤクという素材は、
もちろん冬にこそ、その良さがはっきりと表れる。
日本で一般的に流通しているヤクの原毛の多くは、
チベット高原を含む、中国側の高地に由来するものが中心だ。
そうした地域は一年を通して寒冷で、
ヤクにとっては厳しい環境であることに変わりはない。
一方で、私が向き合っているモンゴル国のヤクは、
寒さの質が少し違う。
モンゴル国は大陸性気候にあり、
冬の厳しさに加えて、季節による寒暖差が非常に大きい。
地域によっては、
冬と夏の気温差が70〜80℃に達することもあると言われている。
さらに、冬の最低気温そのものも低く、
地域によっては −40℃近くまで下がることもある。
暑さと寒さを往復する環境の中で生きるために、
ヤクは自然と、自らの体を守る力を備えていく。
その力が、原毛の中に残っている。
極端な寒さをしのぐための密度。
季節の変化に対応するための反発力。
それらは、人の手で与えられたものではなく、
寒暖差の大きい環境を生き抜く中で、
自然に育まれてきたものだと感じている。
だから私は、
世に広く流通しているヤクを知った上で、
あえて、モンゴル国のヤクを選んでいる。
冬にだけ作る。
一年に一度、その時期に集中する。
それは特別な演出のためではなく、
この素材の力を、
いちばん素直に伝えられるタイミングを選んだ結果だ。
Yacraphの服づくりは、
思いついたものを次々に形にするためのものではない。
納得できる状態になったときに、
静かに差し出す。
冬にだけ作るという選択も、
そうした考え方の延長にある。